東京地方裁判所 昭和38年(ワ)140号 判決
○当事者
原告
佐藤わき子
ほか四名
右両名法定代理人親権者
佐藤わき子
右五名訴訟代理人弁護士
満園勝美
同
佐藤淳
被告
丸全昭和運輸株式会社
右代表者代表取締役
中村全宏
右訴訟代理人弁護士
椎名良一郎
同
吉原歓吉
同
秋山知也
○主 文
1 被告丸全昭和運輸株式会社(以下「被告会社」という。)は、
(一) 原告佐藤わき子に対し金一、〇八〇、三四二円および内金一、〇七三、九三七円に対して昭和三七年八月三一日以降、内金六、四〇五円に対して昭和三八年一月二四日以降各支払ずみに至るまでの年五分の割合による金員を、
(二) 原告佐藤茂憲、同佐藤和子、同佐藤直子および同佐藤雄二に対し、各金六三六、九六八円およびこれに対する昭和三七年八月三一日以降右支払ずみに至るまでの年五分の割合による金員を、支払え。
2 原告らのその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、これを十分し、その三を原告らの平等負担とし、その余を被告会社の負担とする。
4 この判決は、第一項にかぎり、仮に執行することができる。
○事 実
原告ら訴訟代理人は、「1、被告会社は、(一)原告佐藤わき子に対し金一、五二六、八〇八円および内金一、五一七、六五八円に対して昭和三七年八月三一日以降、内金九、一五〇円に対しては昭和三八年一月二四日以降各支払ずみに至るまでの年五分の割合による金員を、(二)原告佐藤茂憲、同佐藤和子、同佐藤直子および同佐藤雄二に対し各金八五八、八二九円およびこれに対する昭和三七年八月三一日以降右各支払ずみに至るまでの年五分の割合による金員を支払え。2、訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、請求の原因として、
一、訴外原口利昭は、昭和三七年八月三〇日午前一〇時五〇分頃普通貨物自動車(神一あ第五二六八号。以下「被告車」という。)にナイロン原料シオレツクスを積載して、都内三河島方面から尾竹橋に至る通称尾竹街道を尾竹橋方面に向つて進行中、荒川区三河島九丁目一九六八番地先交叉点附近において前方を原動機付自転車(以下「原告車」という。)で同方向に進行中の訴外佐藤茂雄を追越そうとし、同人の右背部に激突し、よつて同人に右背部挫圧傷、右第一乃至第一〇肋骨々折、胸部内損傷等の傷害を与えて、同日午後二時頃同人を死亡せしめた。(以下省略)
○理 由
一、請求原因第一項の事実(事故の発生および亡茂雄の死亡)のうち、訴外原口利昭が昭和三七年八月三〇日午前一〇時五〇分頃被告車にナイロン原料シオレツクスを積載して、都内三河島方面から尾竹橋方面に至る通称尾竹街道を尾竹橋方面に向つて進行していたことは、当事者間に争いがない。
しかして被告は、訴外佐藤茂雄と被告車とが接触した事実を否認するので審究するに(証拠―省略)ならびに前記争いなき事実を綜合すれば、訴外佐藤茂雄がその運転していた原告車から投げ出されて倒れていた地点は、宮地方面から尾竹橋方面に至る。幅員約一五米の歩車道の区別のあるアスフアルト舗装道路上の、訴外大森文房具店前の車道であつて、路面が平坦で、凹凸のないところからみて、路面の瑕疵のため原告車が転倒するということは考えられない状況にあること、そして訴外茂雄が転倒する直前を目撃した訴外田中繁吉は、当時宮地方面の得意先に赴くため貨物自動車(以下「訴外車」という。)を運転して、同道路のセンターライン寄りを尾竹橋方面より宮地のロータリー方面に向つて時速四〇粁以下の速度で進行し、前記文房具店附近にさしかかつたところ、たまたま被告車が前方を訴外車に対向して、センターラインを越え、時速約四〇粁の速度で進行して来るのを認めたが、その瞬間被告車のフロントガラスを通して、助手席の窓の方向指示機あたりに訴外茂雄がパツと飛び上るのを目撃し、事故の発生を直感したこと、そこで直ちに被告車に追尾して来た普通貨物自動車の運転手に「シートをかけたトラツクがひつかけたのだから、それをつかまえてくれ」と依頼する一方、訴外車を同道路の左側歩道寄りに停めて、事故の現場に行つたところ、訴外茂雄は、頭を宮地方面に、足を尾竹橋方面に向けて、うつぶせに倒れており、着ていた白いワイシヤツの背中が破れていたこと、そのうち被告車の運転者である訴外原口が現場に引き返し、警察官も現場にやつて来たので、訴外田中は、被告車の運転者が加害事実を認めたのと思い、その場を立ち去つたが、訴外原口は、接触のシヨツクを感じなかつたことを主張し、当初から加害事実を否認し続けていること、しかし警察の調査によれば、原告車の泥除けの部分に微量のゴムらしきものが検出され、また被告車の後車輪に白つぽい繊維の付着していることが発見されたばかりでなく、前記ワイシヤツの右背中端にタイヤ痕が認められ、警視庁科学検査所の鑑定結果によれば、右タイヤ痕は、被告車の後車輪のものと類似性を有することが確認されたこと、その上訴外茂雄の直接の死因は、右背部挫圧傷および右第一乃至第一〇肋骨々折による胸腔内損傷であることが認められる。そして右認定に反する証拠はない。
右認定事実に徴すれば、訴外茂雄は、被告車と接触し、路上に転倒したところをその後車輪によつて轢かれたため死亡したものと認めるのが相当である。
二、請求原因第二項の事実(責任原因)のうちの当事者間に争いのない事実と前項認定の前項認定の事実とをあわせ考えると、被告会社は、被告車の保有者として、自動車損害賠償保障法第三条本文の規定により原告らの受けた次項の損害を賠償すべき義務があるものといわなければならない。
三、そこで次に損害の点について判断する。
(一) 亡茂雄の得べかりし利益の喪失による損害
1 (証拠―省略)を綜合すれば、亡茂雄は、事故の当時満五八才二ケ月余(明治三七年六月二日生)の健康の男子であつて厚生省大臣官房統計調査部刊行の第一〇回生命表によれば、右年令の男子の平均余命は、一六三五年であるから、同人が本件事故に遭遇しなければ、将来なお右平均余命年数の間生存しえた筈であること、しかして同人は昭和三二年頃友人二名とともに各一、〇〇〇、〇〇〇円あて出資して有限会社地球ゴム工業所(東京都足立区本木町一丁目九三六番地)を設立し、一番の年長者で経理に詳しいことから同会社の代表取締役に就任し、事故当時までその職にあつて活躍していたことから、本件事故がなければ以後一〇年間は就労可能と考えられるところ、同人は昭和三七年一月から八月まで右代表取締役として一ケ月平均金四〇、七〇六円の給与を得、またそのほか賞与として年二回各金一〇〇、〇〇〇円を受領していたから、賞与を含めて一ケ月の収入は、金五七、三二七円であつたことが認められ、他に反対の証拠はない。そしてその中生活費は、同人が通常の俸給生活者であるので、右金五七、三二七円を本人を一、配偶者を〇、九、事故当時一四才以上の未成年であつた子三名を各〇、六の割合とする消費単位指数の合算で除した金額である金一五、五〇六円をもつて同人の一ケ月の生活費と認めるのが相当であり、従つて同人の一ケ月の純収益は、金四一、八六六円、一ケ年の純収益は、金五〇二、四〇〇円と認められるから、同人が本件事故によつて得べかりし利益を喪失した損害は、右金五〇二、四〇〇円の割合による将来一〇年間の純収益金五、〇二四、〇〇〇円となるが、これをホフマン式計算方法により一年毎に年五分の割合による中間利息を控除し、本件事故発生当時の一時払額に換算すると、金三、九九一、五四二円となることが計算上明らかである。
2 (証拠―省略)によれば、亡茂雄は、死亡当時年額金八一、一六八円の軍人恩給を受領していたがこの恩給は同人の死亡により原告佐藤わき子に対する年額金四〇、五八四円の遺族扶助料に変更されたこと、従つて同人が本件事故に遭遇しなければ同人の余命年数のうち少くとも一六年間は右軍人恩給を受領しえた筈であるから、同人は、右一六年間毎年その差額金四〇、五八四円の得べかりし利益を喪失し、同額の損害を蒙つたことが認められ、他に反対の証拠はない。よつて一六年間の総額金六四九、三四四円をホフマン式計算方法により一年毎に年五分の割合による中間利息を控除し、本件事故発生当時の一時払額に換算すると、金四六八、一八九円となることが計算上明らかである。
3、そうすると亡茂雄は、右1、2の合計金四、四五九、七三一円の損害を蒙つたことになるが(証拠―省略)を綜合すれば亡茂雄は事故の当時、交差点角の丸一自転車店前に停車していたダツトサンのライトバンを避けるため後方から進行して来る自動車の有無を確認することなく、漫然道路のセンターライン寄りに進行し、本件事故に遭遇したことが推認できるから、亡茂雄の右運転上の過失を斟酌すれば、同人が本件事故によつて得べかりし利益を喪失した損害は金三、一二一、八一二円と認めるのが相当である。
しかして(書証―省略)によれば、原告佐藤わき子は、亡茂雄の妻、同佐藤茂憲は長男、同佐藤和子は長女、同佐藤直子は二女、同雄二は二男であることが認められるから原告らは、亡茂雄が有した右金三、一二一、八一二円の損害賠償債権を各自の相続分に応じて取得したものというべきところ、原告らは本件事故につき受領した自動車損害賠償責任保険金五〇〇、〇〇〇円を各自の相続分に応じて分配したと主張するので、これを各人の相続額から控除すると、原告佐藤わき子は、金八七三、九三七円、その他の原告は、各金四三六、九六八円の損害賠償債権を取得したものと認められる。
(二) (証拠―省略)によれば、亡茂雄は、事故直後荒川区町屋一丁目六六三番地木村外科病院に入院し、治療を受け、原告佐藤わき子は、右治療費金九、一五〇円を支出したことが認められる。右認定事実と前記茂雄の運転上の過失をあわせ考えると、原告佐藤わき子は、金六、四〇五円の財産的損害を蒙つたものと認められる。
(三) 原告らが慰藉料算定の基礎として主張する事実は、原告(省略)の各本人尋問の結果によつてこれを認めることができる。そして右認定事実と前記認定の本件事故の態様を綜合すれば、原告らが本件事故によつて受けた精神的苦痛に対する慰藉料は、各金二〇〇、〇〇〇円を下らないものと認められる。
四、以上のしだいであるから、原告佐藤わき子は、前項(一)3、(二)(三)の合計金一、〇八〇、三四二円、その他の原告は、前項(一)3、(三)の合計金六三六、九六八円の損害賠償債権を取得したものということができる。従つて被告会社に対する原告佐藤わき子の請求中、右金一、〇八〇、三四二円および内金一、〇七三、九三七円に対しては損害発生の翌日である昭和三七年八月三一日以降、内金六四〇五に対しては損害の発生後で本件訴状送達の日の翌日であること一件記録上明らかな昭和三八年一月二四日より右各支払ずみに至るまでの民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度において理由があるから、正当として認容し、その余の請求を失当として棄却することとし、また原告佐藤茂憲、同佐藤和子、同佐藤直子、および同佐藤雄二の各請求中、それぞれ前記金六三六、九六八円およびこれに対する損害発生の翌日である昭和三七年八月三一日以降右支払ずみに至るまでの民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度において理由があるから、正当として認容し、その余の各請求を失当として棄却することとする。
よつて訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第九二条本文、第九三条の各規定を、また仮執行の宣言につき同法第一九六条第一項の規定を適用して、主文のとおり判決する。(裁判長裁判官 小川善吉 裁判官 吉野 衛 裁判官 茅沼英一)